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東京地方裁判所 昭和34年(行)84号 判決 1969年8月12日

原告 落合次郎 外九名

被告 日本電信電話公社

訴訟代理人 永津勝蔵 外一一名

主文

原告斎藤忠男と被告との間に雇傭関係が存在することを確認する。

原告斎藤忠男を除くその余の原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告斎藤忠男と被告との間においては全部被告の負担とし、その余の原告らと被告との間においては全部同原告らの負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、 まづ、原告斎藤忠男を除くその余の原告らの請求について考察する。(定員法関係)

(一)  右原告らがいずれも旧電気通信省の職員として、別紙(一)<省略>記載の勤務場所に勤務し、同記載の身分を有していたところ、昭和二四年八月一二日任命権者である電気通信大臣から、いずれも定員法による整理を理由として免職処分に付せられたことは、当事者間に争いがない。

(二)  本件各免職処分の適法性について。

(1)  本件各免職処分は定員法附則第三項、国家公務員法七八条四号によるものであるところ、過員の整理に当つて何人を免職するかは、本来任命権者が自らの裁量によつて決定しうるものであるが、その決定が全面的に任命権者の自由裁量に委ねられているということはできない。詳言するとこれらの処分をなす場合においても、国家公務員法二七条に定める平等取扱の原則、同法七四条に定める分限の根本基準、同法九八条三項の規定に反して行なうことはできずその処分は公平な判断に基づいてなされなければならないことは勿論、処分がいちじるしく客観的妥当性を欠き明らかに条理に反する場合は違法なものというべきである。

(2)  ところで、原告らの任命権者である電気通信大臣が本件整理をなすに当つて被告主張のような内容の整理基準を設定したことは当事者間に争いがないところ、<証拠省略>と当局側は本件整理をなすに際し、実質的な犠牲者を少くするため希望退職者をなるべく多くつのり、それでもなお定員法に定める新定員に合致しない場合において、強制的に退職させる方針をとり、その被免職者の選択の公平を期するために、右整理基準を設定し、これに該当する者を免職させることにしたものであることを認めることができる。

そして以上によると、右整理基準は、当局側の内部的な一応の取扱基準にすぎないとしても、本件過員整理に当つても導守すべき前述した一般的原則に合致しており、これを本件整理に際して具体的表現をなしたものと解することができる。

(3)  そこで、原告らに対する本件各免職処分が前記整理基準に従つてなされたものであるかどうかについて判断する。

(イ) 被告主張の原告落合次郎に関する冒頭の事実のうち、同原告が昭和二四年七月八日頃、日本共産党杉並地区委員会の構成員であつたことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によると、同原告は昭和二三年春頃から本件免職処分の頃まで全逓東京工事局支部の組合員であつた(同原告が被告の主張するように執行委員であつたことを認めるに足る証拠はない)ところ、<証拠省略>を綜合すると<証拠省略>事実摘示中に記載した整理基準該当事由としてあげられている原告落合の(A)ないし(C)の事実を認定することができる(但し、(B)の事実中同原告が執行委員に就任した点を認めることができないことは前述した。)。

右認定によると、同原告の(A)の行為は整理基準三、(ロ)、(ホ)の非協力行為に、(B)の行為は整理基準三、(二)ないし(ヘ)の非協力行為に、(C)の行為は整理基準五にそれぞれ該当している。

(ロ) 被告主張の原告飯塚進三に関する冒頭記載の事実は当事者間に争いがなく、<証拠省略>によると、事実摘示中に記載した整理基準該当事由としてあげられている原告飯塚の(A)および(B)の事実を認めることができ、<証拠省略>によると、(C)の事実を認めることができ、<証拠省略>中前記認定に反する部分は採用しない。

右認定によると、同原告の(A)の行為は整理基準三、(イ)およびないし(ニ)に該当する非協力行為に、(B)の行為は整理基準五の「低能率および不良勤務者」に、(C)は同大の「勤務年数短かく良好でない者」に、それぞれ該当している。

(ハ) 被告主張の原告塚本重雄に関する冒頭記載の事実は当事者間に争いがなく、<証拠省略>によると、事実摘示中に記載した整理基準該当事由としてあげられている原告塚本の(A)および(C)の事実を認めることができ、右尋問の結果中これに反する部分は採用できず、(B)の事実は肯認するに足る証拠はない。

右認定によると、同原告の(A)の行為は整理基準の三、(ニ)に該当する非協力行為に、(C)の行為は整理基準五の「低能率および不良勤務者」に該当している。

(ニ) 被告主張の原告中沢広哉に関する冒頭記載の事実は当事者間に争いがなく、<証拠省略>によると、事実摘示中に記載した整理基準該当事由としてあげられている原告中沢の(A)ないし(C)の事実を認めることができ、<証拠省略>の結果中右認定に反する部分は採用しない。

右認定によると、同原告の(A)の行為は整理基準三、(イ)および(ニ)ないし(ヘ)に記載した非協力行為に、(B)および(C)の行為は整理基準三(イ)ないし(ホ)の非協力行為に該当している。

(ホ) 被告主張の原告平松誠一に関する冒頭記載の事実は当事者間に争いがなく、<証拠省略>によると、事実摘示中に記載した整理基準該当事由としてあげている原告平松の(A)ないし(D)の事実が認められ、右尋問の結果中右認定に反する部分は採用しない。

右認定によると、同原告の(A)の事実は整理基準六の「勤務年数短かく良好でない者」に該当し、(B)の行為は整理基準三、(ニ)ないし(ヘ)に記載した非協力行為に、(C)の行為は整理基準三、(イ)および(ニ)ないし(ヘ)に記載した非協力行為に該当し、(D)の行為は、整理基準五の「低能率および不良勤務者」に該当している。

(ヘ) 被告主張の原告伊集院式に関する冒頭記載の事実(ただし、末尾記載の全逓の違法行為の点を除く。)は当事者間に争いがなく、<証拠省略>、事実摘示中に記載した整理基準該当事由としてあげている(A)ないし(C)の全逓の違法行為について、中央執行委員としてこれが企画に参加し、執行委員長を補佐したものであることが認められ、以上からすると、同原告の右の行為は、整理基準三の各号に該当している。

(ト) 被告主張の原告大塚欣蔵に関する冒頭記載の事実は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨から成立の是認できる<証拠省略>によると、事実摘示中に記載した整理基準該当事由としてあげられている(A)および(B)の各行為が認められ、右尋問の結果中右認定に反する部分は採用しない。

右認定によると、同原告の(A)の行為は整理基準三、(ロ)および(ニ)に該当する非協力行為であり、(B)の行為は整理基準三、(イ)、(ロ)、(ニ)に該当している。

(チ) 被告主張の原告川越正博に関する冒頭記載の事実は当事者間に争いがなく、<証拠省略>を綜合すると<証拠省略>事実摘示中に記載した整理基準該当事由としてあげられている(A)ないし(C)の行為を認定することができる。

右認定によると、同原告の(A)の行為は整理基準三、(ニ)ないし(ヘ)に記載した非協力行為に該当し、(B)の行為は整理基準三、(ロ)および(ニ)に記載した非協力行為に該当し、(C)の行為は整理基準三(イ)および(ニ)ないし(ヘ)の非協力行為に該当している。

(リ) 被告主張の原告長谷川俊介に関する冒頭記載の事実は当事者間に争いがなく、<証拠省略>を綜合すると<証拠省略>、事実摘示中に記載した整理基準該当事由としてあげられている(A)および(B)の行為が認められ、同本人尋問の結果によれば、(C)の事実も認定することができる。

右認定によると、同原告の(A)および(B)の行為はいづれも整理基準三、(イ)および(ニ)ないし(ヘ)に記載した非協力行為に該当し、(C)の事実は整理基準六の「勤務年数短かく良好でない者」に該当する。

(三)  原告らの憲法違反の主張について

(1)  定員法附則第五項が、本件行政整理について、国家公務員法八九条ないし九二条に定める「職員の意に反する不利益処分に対する審査請求権」の適用を排除していることは、原告らの主張するとおりであるが、被整理公務員に免職処分の当否について裁判所に出訴する途がとざされていない以上、右審査請求権が奪われたことから直ちに右旨を定めた第五項の定めおよび同附則三項に基づく本件行政整理が憲法二八条に違反すると解することはできない。

(2)  原告落合、同飯塚、同塚本、同川越が本件免職処分当時日本共産党員であつたことは前述したとおりがあるが、すでに認定したところから明らかなように、原告斎藤忠男を除くその余の原告らは前掲整理基準に該当することを理由としてそれぞれ免職処分に付せられたものであり、原告らの全立証によつても、その主張するように同人らが共産主義者またはこれが同調者であることを理由として免職されたことを認定することはできない。、

以上からして、原告らの本件行政整理が憲法違反である旨の主張は採用できない。

(四)  以上説示したところによると、本件原告らの免職処分になんら原告ら主張のような瑕疵はなく、いづれも有効というべきであるから、同原告らはそれぞれ当該処分により電気通信省の職員としての身分を失つたというのほかない。

二、 つぎに、原告斎藤忠男の請求について考察する。(レッド・パージ関係)

原告斎藤が旧電気通信省の職員として、別紙(一)<省略>記載の勤務場所に勤務し、同記載の身分を有していたところ、昭和二四年一一月一〇日任命権者である電気通信大臣から、共産主義者であつて、国家公務員法上の公務員としての適格性を欠くという理由により免職処分に付せられたことは、当事者間に争いがない。

(一)  連合国最高司令官のいわゆる「レッド・パージ」の指示について。

まづ、被告は本件免職は連合国最高司令官の指示に基づく処分である旨主張しているから、右指示の内容および効力について検討する。

(1)(イ)  連合国最高司令官から内閣総理大臣吉田茂あての昭和二五年七月一八日付書簡が、同司令官から発せられた同年五月三日付声明および同年六月末日付、同月七日付、同月二六日付各吉田総理あての書簡の趣旨等からして、公共的報償機関ばかりでなく、その他の民間重要産業からも共産主義者またはその支持者を排除すべきことを要請した指示であり、かつ、右指示が当時わが国の国家機関および国民に対して法規としての効力を有し、わが国の法令は右の掲示に抵触する限りにおいてその適用が排除されると解すべき旨、最高裁判所はその判例において明らかにしている。(昭和二七年四月二日大法廷決定民集六巻四号三八七頁、同三五年四月一八日大法廷決定民集一四巻六号九〇五頁、同三七年二月一五日第一小法廷判決民集一六巻二号二九四頁参照)

右判例の解釈として、排除の対象者について「共産主義者またはその支持者」(前掲四月二日、四月一八日決定の各要旨中の「共産党員またはその支持者」の表現は正確でない。)としてこれにつきなんらの限定を付していない以上、いやしくもこれが要件に該当する者であるかぎり、その具体的活動またはそのおそれの如何を問わない趣旨と理解されなくはないが、四月一八日決定および二月一五日鞠決の事案においては、いずれも被非除者の具体的活動について主張立証がなされていること(四月二日決定の事案については、この点明らかでない。)、この種判例にあつては四月二日決定がいわゆるリーディング・ケースというべきところ、これより後の同三〇年月二二日第三小法廷判決が「連合軍占領下における紡績会社の共産党員である従業員の解雇が、その従業員の企業の生産を阻害すべき具体的言動を根拠とするものであつて、解雇当時の事情の下でこれを単なる抽象的危虞に基く解雇として非難することができないものと認められる場合には、かかる解雇をもつて共産党員であること、もしくは単に共産主義を信奉すること自体を理由とするものということはできない」旨判示(民集九巻一二号一、七九三頁参照)しているところからすると、前記のように判例を理解することに疑問の余地がなくはない。

(ロ) そこで、連合国最高司令官の指示の内容、すなわち、前掲声明、書簡の趣旨とするところを検討する要がある。(四月二日決定では、七月一八日付書簡の文言の全趣旨のほか「本件にあらわれた他の資料」をあげているが、これが具体的内容は必らずしも明らかでない。)

被告主張の五月三日付声明、六月末日付書簡、六月七日付書簡、六月二六日付書簡、七月一八日付書簡によつて最高司令官の指摘するところは、日本共産党およびこれに同調して活動する共産主義者またはその同調者の目的、性格および現実り活動の一般的な指摘であり、これらの目的、性格および活動は、党員を中核とする共産主義者またはその同調者により彩成されるところ、最高司令官が党員についてすら、これがすべて右指摘にかかる破壊主義的な傾向の持主として排除せらるべきことを指向していたかどうかは、「共産党内部の最も過激な無法分子の代弁者」(六月七日付書簡)「新しい指導者によつて赤旗が比較的穏健な方向に方針を改め・・・を希望した」(六月二六日付書簡)等との表現がとられていることからして必らずしも明らかでない。

ところで、前掲三七年二月一五日判決は、別紙四記載のエーミス労働課長の談話は、最高司令官の事件指示の解釈の表示であり、そのような解釈の表示も、当時においては、わが国の国家機関および国民に対し最終的な権威をもつていたものと解すべき旨判示しているところ、同談話は、いわゆる赤色分子追放の対象者として、(イ)アクティブ・リーダー、トラブルメーカー並びにその同調者であること、(ロ)必らずしも党員であることを要件としないが、アグレシヴなものであることを要する。但し、単に党員であることのみをもつて排除するものではない旨を明らかにしている。

したがつて、以上によると、最高司令官の本件指示は結局、共産主義者またはその支持者のうち、積極的に虚偽、爆動的、破壊的な言動を行なう者およびそのおそれのある者の排除さるべきことを意味していると解するのが相当であり、そうだとすると、前掲判例(同三〇年一一月二二日判決を除く。)が共産主義者またはその支持者であることそれ自体だけで排除されるべき旨を判示しているとすると、これに同調することはできない。

(2)(イ)  政府は、最高司令官の本件指示は、国家公務員等の国家機関その他の公の機関からの共産主義者またはその同調者(これが無限定であるかどうかについては後述する。)の排除をも要請する趣旨であると判断し、右指示に基づく国家公務員等に対するこれが実施方策として、被告主張の閣議決定および閣議了解をなし、これに基づいて右排除を実施し、本件免職処分もその一貫として行なわれたものであることは、<証拠省略>から明らかである。

前掲声明、書簡の趣旨と公務員が国民全体の奉仕者であることからすると、本件指示による排除の対象は、民間重要産業の従業員にとどまらず国家公務員をも含むものと解すべきであり、右書簡等の内容それ自体、また、他に公務員の排除について民間労働者のそれと異る基準をとるべきことを要請していると認むべきものがない以上、すでに述べた本件指示の解釈は、公務員の場合についても同様であるといわねばならない。前掲閣議決定が「共産主義者又はその同調者はこれらの機関から排除するものとする」とすることなく、「共産主義者又はその同調者で、官庁・・・の機密を漏洩し、業務の正常な運営を阻害する等その秩序をみだり、又はみだる虞があると認められるものは、これらの機関から排除するものとする。」と定め、エーミス課長の談話の線に沿つた態度をとつていることは、以上の理を明らかにするものといえよう。

被告は、いやしくも共産主義者またはその同調者である以上、それ自体を理由として排除されるべき旨を本件指示は要請している旨主張するが、そのしからざる所以はすでに述べたとおりであり、前掲閣議決定、閣議了解が、日本共産党の党員およびその同調者であることが明らかな者についてはその具体的活動を要しない趣旨であるとは、右決定等の定めの文言、体裁からたやすく推認することはできず、他にこれを明らかにすべき資料もないから、被告の本件指示および閣議決定の解釈についての主張は採用できない。

(ロ) かくして、最高司令官の本件指示に基づく閣議決定に則り国家公務員を免職処分に付するためには、当該公務員が単に共産主義者またはその同調者であるだけでは十分でなく、各人につき閣議決定の掲げる例示のような「秩序をみだり又はみだる虞があると認められる」具体的活動の存在が要件とされているというべきところ、本件に顕出された全証拠を検討してみても、原告斎藤に前記要件に該当する具体的活動があつたと認定するに足る証拠は皆無である。

以上からすると、本件免職処分は、本件指示が所期する被排除者の範囲をこえてなされたものであるから、右指示に基づくものとして有効とはいえず、これが効力の有無は、わが国の法令に照らして判断されるべきである。

原告斎藤が共産主義者であることは、すでにのべたとおりであるが、このことから直ちに同人が被告主張の国家公務員法七八条三号に定める「その他その官職に必要な適格性を欠く場合」に該当するものということはできず、単に共産主義者であることのみを理由とする本件免職処分は同原告の信条による差別といわざるをえず、憲法第一四条、第一九条に違反する違法な処分というのほかない。そして、その違法は重大であるばかりでなく、閣議決定の掲げる要件を充足しておらず、本件処分日に先立つ昭和二五年九月二六日付エーミス課長のなした最高司令官の本件指示の解釈の表示も看過しているから、本件処分当時これが瑕疵は明白であると認められ、以上からして、本件免職処分は無効というべきである。

(二)  「権利失効の原則」の主張について。

本訴が、原告斎藤について、免職処分後一〇年近くを経過した昭和三四年六月二六日提起されたことは、本件記録上明らかであるところ、本件行政処分の内容が免職であることを考慮しても、右期間の経過から直ちに、同原告が本訴において右処分の無効を主張することが信義則に反すると認められるべき特段の事由に該当するとはいえず、したがつて、信義則の一適用である「権利失効の原則」を本件に適用する余地はないから、被告の右主張は理由がない。

(三)  以上により、本件免職処分が無効である以上、原告斎藤は旧電気通信省の職員としての身分を失つておらず、日本電信電話公社法の施行に伴い、右施行の際同省の職員であつた者は、同法施行法二条により被告の職員となつたから(この点当事者双方も争つていない。)、同原告もこれに伴い被告の職員たる身分を取得し、被告との間に雇傭関係が存続するというべく、被告がこれを争つている以上、これが確認の利益がある。

三、 以上説示したとおり、原告斎藤恵男に対する本件免職処分は無効であるから、右原告の請求は理由あるものとして認容できるが、その余の原告らの請求は理由がないからいづれもこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浅賀柴 宮崎啓一 大川勇)

別紙(二)

共産主義者等の公職からの撲除に関する件(閣議決定)

民主的政府の機構を破壊から防衛する目的をもつて、危険分子を国家機関その他公の機関から排除するために、左記の措置を講ずること。

(一) 共産主義者又はその同調者で、官庁、公団、公共企業体等の機密を漏洩し、業務の正常な運営を阻害する等その秩序をみだり、又はみだる虞があると認められるものは、これらの機関から排除するものとする。

(二) 排除の方法は、国家公務員法第七八条第三号(公共企業体の職員については、日本国有鉄道法第二九条第三号又は日本専売公社法第二二条第三号)の規定による。

(三) 排除は、一斎に行うことを避け、その必要の特に緊切なものから始めて、逐次他に及ぼすものとする。

(四) 地方公務員及び教職員(国家公務員法の適用を受けないもの)については本件措置に準ずる措置が講ぜられるように努める。

なお、本件措置は、共産主義者又はその同調者に対し制裁の目的をもつてするものではなく、もつぱら破壊に対する防衛を目的とするものであるから、反省の余地ありと認められる者については、その反省の機会を与えつつ実施するよう留意すること。

別紙(三)

共産主義者等の公職からの排除に関する件(閣議了解)

本年五月三日の憲法記念日に際し、連合国最高司令官から発せられた声明には、「日本共産党が今や公然と国外からの支配に屈服し、かつ人心をまどわし、人心を弾圧するための虚偽と悪意にみちた煽動的宣伝を広く展開していること、さらに反日本的であるとともに、日本国民の利益に反するような運動方針を公然と採用している」ことが指摘されるとともに、「従つて現在日本が急速に解決を追られている問題は、全世界の他の諸国と同様、この反社会的勢力をどのような方法で国内的に処理し、個人の自由の合法的行使を阻害せずに国家の福祉を危くするこうした自由の濫用を阻止するかにある。」ことが示唆されてあり、さらに本年六月六日附の連合国最高司令官より内閣総理大臣宛の書簡には、日本共産党について、「然るに最近に至つて新しい、そしてこれに劣らず有害な集団が、日本政界にあらわれたが、この集団は真理を歪曲し、大衆の暴力行為を煽動して、この平穏な国を無秩序と斗争の場所に変え、これをもつて、代議制民主主義の途上における日本の著しい進歩を阻止する手段としょうとし、また日本国民の間に急速に成長しつつある民主主義的傾向を破壊しようとした。彼等は同じ意図をもつて、法令に基く権威に反抗し、法令に基く手練を軽視し、そして虚偽で煽動的な言説やその他の破壊的手段を用い、その結果として起る公衆の混乱を利用して、ついには暴力をもつて日本の立憲政治を転覆するのに都合のよい状態を作り出すような社会不安をひき起そうと全てている。」ことが明示されている。

これらの声明等は、最近における日本の共産主義者が国外における侵略主義的勢力の支配に屈服し、わが国における民主主義的復興を妨げ、国内に破壊と混乱をもたらそうとしているがもはや顕著な事実となつていることを指摘したものであるが、公務員が元来、国民全体の奉仕考として公共の利益の擁護に任ずべきものである以上、この種の危険分子が公職に必要な適格性を欠くものであることはいうまでもない。

よつて、政府は、民主的政府の機構を破壊から防衛する目的をもつて、危険分子を国家機関その他公の機関から排除するために、共産主義者又はその同調者たる公務員で公務上の機密を漏洩し、公務の正常な運営を阻害する等秩序をみだし、又はみだる虞があると認められるものを、国原公務員法その他当該法規の規定に基き公職に必要な適格性を欠くものとして、その他位から除去するものとする。

而して、この措置は、共産主義者又はその同調者に対し、制裁の目的をもつてするものではなく、もつぱら破壊に対する防衛を目的とするものであるから、反省の余地ありと認められる者については、その反省の機会を与えつつ実施するよう留意するものとする。

別紙(四)

昭和二五年九月二六日連合国総司令部経済科学局エーミス労働課長の私鉄経営者協会に対してした談話(民集八巻二号二九五頁参照)

一 私鉄の赤色分子追放は、労使双方の協力によつて行うこと。実施の責任は使用者にある。

二 総司令部及び政府は干渉も指示もしない。

三 整理の対象

(イ) アクテイヴ・リーダー、トラブルメーカー並びにその同調者であること

(ロ) 必ずしも党員であることを要件としないが、アグレツヴなものであることを要する。但し、単に党員であることのみをもつて排除するものではない。

四 同意協議約款の有無にかかわらず、組合と協議することが望ましい。但し、会社と協力する組合と協議すればよい。リストは組合にも提示して欲しいが、協力しない組合に提示せよとはいわない。斯る場合及び協議不調の場合は、使用者の意思によつて整理すること。

五 整理の完了は一〇月末日を目途とすること。

六 人員、職名、期日について経協より総司令部宛報告すること。

七 使用者は、この整理に便乗して企業整備合理化に基く整理を行わないこと。便乗整理があつた場合は、総司令部労働課より差し止めることがある。

八 現在の法律に関する解釈は、日本政府の責任であるが、自分の意見は、日本政府の意見と一致している。

九 本日は、米国政府の意向に基いて総司令部労働課の自分が招集したのであるから、この措置は、その意を体して労使の双方が実施するものであることを考えてもらいたい。

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